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約1ヶ月、泊り込みでの研修に疲れ果てていた。それでも寮に帰ると腕立て、腹筋は100回ずつ。
体だけは愚直に鍛え続けていた・・。

専門学校を出て就職したものの、既に幾つかの職を転々としてしまった。
何だか会社ってものが窮屈で仕方なかった。

女子高生の彼女、N美に「マコちゃん、お願いだからちゃんとして・・」と懇願され、一念発起して再就職。
全く・・高校生に言われてりゃ世話ねえな・・平静を装っていたが言われた時は流石に恥ずかしかった。

1ヶ月も寮に住んで研修を受けるという、俺にとってはかなり無茶な状況。
それでもガキの彼女に泣きながら言われちゃ仕方あるまい。真面目に頑張るつもりだ。

研修先の寮には男女合わせて8人の新人が居た。
寮といってもアパートを何部屋か借りたとこに、1部屋につき3人ぶち込まれる。男女は別だ。
メゾネットだったので何とか生活出来たが、プライベートを大事にする俺は憔悴しきっていた。

研修が進み、既に半分になった新人達、その中にT子という女が1人残っていた。
彼女の寮は少し離れたとこにあり、俺達のオンボロとは別のお洒落なアパートで、そこに先輩の女性社員と住んでいた。

何度か話すうち、お互い好意を抱くようになり、皆の目を盗んでは何処かで会うようになった。
そして先輩社員が居ない隙に彼女の部屋に行き、遂には男女の関係になった。

チラリとN美の顔が頭をよぎったが、研修で溜まりに溜まったフラストレーションは性欲に姿を変え暴発。
それからは毎日の様に忍び込み、激しい情交に及んだ。
時には部屋に先輩の女性社員が居るにも関わらず・・。

彼女の部屋でばれない様に朝まで居るのはかなり大変で、セキやクシャミひとつ出来なかった。
先輩社員出勤後、急いで会社に向かう日々、筋金入りのダメ人間は更生しそうもなかった。

天国のような地獄のような研修が終了。終わってみれば俺とその女、T子しか残らなかった。
お互いの地元の営業所に配属が決まり、やっと自宅へ戻って来られた。

真っ先に女子高生のN美に報告し、車でホテルへ。門限まで時間の許す限り、互いの肉体を貪り合った。
勿論、T子とも切れておらず同時進行。つくづくダメな男である。

T子に「やめたら別れる」と脅されていた俺は地元の営業所へ通った。
そこはF山という絵に書いたようにイヤミな男が所長だった。後はN村さんと事務の女性のH田さん、たまに応援の人達がT子の居る営業所からやって来ていた。

所長のイヤミに耐えながら、毎日真面目に仕事に向かった。入社の時の「飛び込み営業無し」は嘘八百で、こういう事が苦手な俺はかなり苦痛だったが、T子と別れたくない一心で俺としては頑張った。

T子とは週に5回程会っていた。美人で優しく、家庭的な女であった。
滅多に本気で怒らないが、怒らせるとそれは凄まじかった。

そう、彼女は地元では名の知れたレディースだったのである。腕には「喧嘩でやられた」というチェーンの傷やモク印がバリバリだ。

元レディース、度胸は本物、こんな事があった。
以前俺の車をT子が運転していた際、ちょっと横入りをした時にダンプに絡まれた。プア~ッとクラクションを鳴らし続けて走るダンプに何を思ったか停車。降りて来たチンピラが俺の車をガーンと蹴った。

すると「あっちに停めな!話つけようよ!」と空き地へ誘導。
「さらっちまうぞ!」凄むチンピラに「ふ~ん、何処へ?事務所?聞き慣れたハッタリ言ってんじゃね~よ!」

とにかく凄かった。「器物損壊でオマワリ呼ぶぞ!コラ!」こう言ってるのはT子である。
運転手は最初の勢いは何処へやら「確かに蹴ったけど・・オマワリ呼んだらさぁ・・」とタジタジ。
「凹んでないから良いよ。帰ろう・・。」と何とかなだめて事無きを得た事があった。

帰りの車内で「ゴメンね・・ビックリした?」ニコッと笑うT子に頼り甲斐を感じ、一生付いて行こうと思ったものである。その日の晩はT子に思いっきり甘えてしまった。

東京に友達7~8人で遊びに行った時にAVにスカウトされたという逸話もある程、可愛らしい顔立ちの女だ。
その時に貰った名刺を見た時に「出ればよかったじゃん」と言うと「なんでそんな事言うの?」悲しそうな顔をして甘えてきた。T子は俺のツボにどストライクな典型的なツンデレだった。

「アンタ!やめんじゃないよ!」言葉はキツイが心の優しいこの女に、いつしか惚れてしまっていた。
勿論N美とも切れてなかったが・・。本当につくづくダメな男である。

ある晩、ふとジャンプを読み忘れていた事に気付き、自宅近くのセブンまで買いに行った。
愛車はEP82、軽く峠で遊んだりしていたのでマフラーは交換してあり、かなりうるさい。
深夜なので近所迷惑を考え、アイドリングもせずにそのままセブンへ車を走らせる。

ほんの1~2分で着くはずだったが、前を走るY32セドリックがノロノロ運転。
イライラしながら付いて行き、入口がふたつあるセブンの駐車場に手前から入った。

セドリックはそのままス~ッと走り去ると思いきや、ガーッと向こうの入口から駐車場に入って来た。
呼吸が荒くなり、鼓動が速くなるのが分かった。

俺の車ギリギリに停めたフルスモークのセドリックからカチャッと若い男が降りて来た。
「何テメーあおってんだ!ブンブンうるせ~よ!」かなりの勢いで男が言い放つ。

ヒョロッと背が高く、パンチパーマに角度のついたサングラス(地元ではチョングラ)をかけている。
いつもの様に息がしにくくなって呼吸が速くなっていく。「別にあおってね~よ。」何とか声に出した。

少し前からダチのワベちゃんと格闘技にハマっており、RINGSのビデオを見ては2人でああだこうだと練習していた。ワベちゃんは組み技系のハンやドールマンが好きで、俺は打撃系のフライやウィリー、ナイマン等が好きだった。

とにかくワベちゃんちに行けばビデオを見ながら技の研究、及び軽いスパーリングばかりやっていた。
勿論筋トレは続けており、腕力に少しは自信があった。専門学校時代には、怪力「中西さん」以外に腕相撲では負けたことは無かった。

それでも喧嘩をしようとは全く思わず、そのままスッとセブンに向かって歩き出した。
「聞いてんのか?おい!」可愛らしいデザインのパーカーの帽子をグイッと引っ張られる。
「なめてんじゃね~ぞ!」ゴンゴンと腹や足を数発蹴られた。

肉体的なダメージは皆無だったが、またしても俺の中で何かが動き出した・・。
チンピラチックな男の腕を振り払い、再び歩き出す。しかしまたしてもパーカーの帽子を引っ張られた。

その勢いと同時、振り返りざまに思い切り右拳を顔面にぶち込んだ!
拳は頬の辺りに命中し、ゴツッ!鈍い音がした。

男の体はまるで勢いを失ったコマの様にクルリと回転し、ドサッと崩れ落ちた。
その際、ガン!後頭部を自分のセドリックにぶつけて、それからピクリとも動かない。
うおおおお~っ!何やら味わった事の無い感覚が全身を駆け巡る。

そのまま何故かセブンでジャンプを買い、駐車場に戻ると男はクシャッとのびたまま。
流石にヤバイと思い、ライトも点けずにそろ~っと駐車場を脱出。
ブワーン!EP82をすっ飛ばして自宅まで逃げ帰った。

ハアハアと荒い呼吸、興奮冷めやらぬまま、このおかしな感覚に酔う。
俺のパンチ一発で失神しちゃったぞ!ハハ・・ハハハ!何だこの感じは!

暫くすると急に右の拳がズキズキと痛み始めた。
ブルブルと震えてしまい、まともに握れなくなってしまった。
見る見るうちに腫れてくる。小指の辺りが特にパンパンだ。

さっきまでの浮かれ気分は消え、明日の仕事が気になってきた。
とりあえず氷で冷やしてみたものの、痛みは治まらない。

クビになったらT子に怒られちまう・・。
さっき生まれて初めて人間をK.Oした事よりも・・ジャンプの続きよりも・・惚れた女の事が気になった。

そして翌日、事態は思わぬ方向に向かい加速する・・。
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