KAROUDEN 「胎動 ～ゲーム小僧の反乱～」

高校３年の夏、調子こいてアイパーをかけていた俺はうだるような暑さの中、家へと急いでいた。
買ったばかりのゲームの続きがやりたい一心でチャリンコをすっ飛ばす。

ディスカウントショップキングの脇から小学校へ抜ける細い坂道を駆け上がった時だった。
坂を並走しながら下って来た高校生２人組とかなりの勢いで衝突した。
ガッシャ～ン！３人共、チャリンコもろともスッ転ぶ。

「いってぇ～な！テメー何やってんだ！」ムクリと起き上がった奴はデカイ。１８０ｃｍは軽くある。
船の先っぽの様なリーゼント、眉毛はほとんど無く短ランにボンタン。やべぇ・・。

「オメーチャリンコ弁償しろよ！」そうか・・もう１人居たんだっけ。デカイ奴のあまりの迫力に忘れてた。
茶髪にサラサラヘアーのお洒落な感じの奴だ。お決まりの短ランとボンタンだが。

「そっちこそ並んで下って来ただろ？」気弱な俺はデカイ奴にビビリながら振り絞る様に声を出す。
「あ～？テメ～落とし前つけろや！」「どこのもんだ？」ヤバイ・・どうしよう・・。

よく覚えてないが小学校高学年までは同級生に怪我をさせまくっていたらしい。
母と色んなお宅へ果物を持って謝りに行った記憶がある。

中学時代はゲーム小僧。完全にオタクだった。
周りのトッポイ奴らが煙草を吸ったり、制服をいじったり、警棒を持ったりしていても、何の興味も無かった。
何故そんな事をするのだろう？と疑問に思っていた。散々泣かした奴らが粋がるのが滑稽だった。

それよりも次はどんなゲームが出るか？その方が気になって仕方なかったのだ。
それ故、中学時代は大きなトラブルにも巻き込まれず、小学生の頃の暴力行動も全く起こらなくなっていた。

高校時代も平和そのもの。俗にいうヤンキーな人達は居たが、皆仲良くやっていた。
初めて彼女も出来たせいもあって、頭と服装はちょっといじってたが、喧嘩らしい喧嘩などしてなかった。

そんな俺がいきなりヤバイ感じに船の先っぽ頭のデカブツと茶髪のサラサラヤンキーに凄まれている。
こういうシチュエーション自体、初めてと言って良いだろう。口が渇いて手が震えた。
「ちょっとそっち行こうぜ。」デカブツが呟く。何でそこに空き地があるかな～・・。

坂を上り、小学校脇の空き地へチャリを押す３人。もうどうして良いか分からない。
「ここ曲がってるだろ？弁償しろよ！」茶髪の方が口うるさい。

何かボソボソ言い返してみたが茶髪はエスカレートするのみ。胸倉をつかまれチャランボー連発。
デカブツは静観している。余裕タップリだ。慣れてるんだろな、こういうの。
ボカボカと足を蹴られてる内に何かが沸々と湧いてくるのを感じた。

高校１年の時、ゲーム小僧オタク路線まっしぐらだった俺はかなり肥えていた。
これじゃイカンと奮起し、５ｋｇの鉄アレイを２つ買って自己流で筋トレを始めた。
今思うとこれが俺の筋トレの幕開けだった。筋肉うんぬんよりも体重が日に日に落ちていくのが嬉しかった。

体は密かに鍛えていたのだ・・・。

ビリッ！ワイシャツの襟が破れた音で何かが弾けた！
次の瞬間、茶髪がぶっ倒れた。え？自分でも信じられない行動をとった。
思い切り右の拳で茶髪をぶん殴ったのだ！

鼻血を出してうずくまる茶髪、その背中に襲い掛かる自分。何でだ？
訳も分からず突進する。その刹那、ブンッ！いきなり凄い力で後ろに投げ飛ばされた。柔道！？

デカブツがドーンと立っている。デカイ。仰向けになってる自分にデカブツが突進して来た！
うわっ！必死に体を丸める。頭や腹にガンガンと衝撃が伝わる。いってぇ～。
目も開けられない。空き地の砂ぼこりのニオイだけが感じ取れるだけだ。

どの位時間が経ったのだろうか・・？
実際の時間にすれば５～１０分ぐらいだったのだろうが、本当に長く感じた。

何やら大声が聞こえる。デカブツはガタガタとチャリンコに乗って走り去る。
茶髪は鼻を押さえてチャリを押し、歩いて行く。何故だ？

「何やってんだ！」突然の大声に、寝た状態のままで振り返る。
すると小学校の先生が２人こっちへ歩いて来ていた。

フラフラと立ち上がったとこで「どうした？喧嘩か？」「ハイ。」「大丈夫か？」「ハイ。」
何だか恥ずかしくなって急いでチャリを起こして跨る。「気をつけてけよ！」「すいません。」
この年になって母校の先生に助けられるとは・・。

ビリビリのワイシャツ、血の味がする口の中、少し曲がったチャリに跨って、何だか気分は悪くない。
親に何て言おう・・そればっかり考えながら家までペダルを漕いだ。

あれほど楽しみにしていたゲームの事も忘れて・・。